IT企業のM&A
仲介とFAの違い:IT企業の売却ではどちらに頼むか
仲介は売り手と買い手の双方を支援し、FAは契約した一方を支援します。役割・報酬の受け取り方・確かめる点を整理しました。
確認 2026-10-04
ひと目でわかる違い
| 比べる点 | 仲介 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) |
|---|---|---|
| 契約の相手 | 売り手と買い手の両方 | 売り手か買い手の一方 |
| 支援する相手 | 両方の間に立ち、両方を支援する | 契約した側を支援する |
| 報酬を受け取る相手 | 売り手と買い手の両方 | 契約した側(相手方から受け取らないかは契約で確認) |
| 成功報酬の計算 | レーマン方式と最低報酬が中心 | レーマン方式が多いが、契約ごとに決める |
| 着手金・中間金 | 売り手は無料とする会社が多い | 中間報酬や着手金、月額報酬がかかる契約もある |
| 利益相反 | 構造上起こりうる。契約前に書面で説明を受ける | 相手方との利害の対立は小さい。ただし成功報酬による成約優先の動機などは残る |
仲介は双方を支援し、FAは契約した一方を支援します。そのうえで、報酬を誰から受け取るかも確かめます。名称より、契約で何をしてくれるかが大事です。
仲介のしくみ
仲介会社は、売り手と買い手の両方と契約します。相手探しから条件の調整、契約の手続きまで、間に立って進めます。
報酬も両方から受け取ります。料金ページで、次のように公表している会社があります。
- インテグループ:「売り手・買い手ともに同一の料金体系」(料金体系)
- M&Aキャピタルパートナーズ:売り手・買い手で同一の手数料体系(手数料)
- M&A総合研究所:譲受企業からは中間金と成功報酬を受け取る(料金体系)
買い手が払う手数料は、売り手の手数料に上乗せされるものではありません。ただ、買い手は取得にかかる総額で予算を考えます。費用を誰が負担するかは、分けて整理してください。
仲介会社には、買い手候補の登録数を公表しているところがあります。たとえばIT M&A支援センターは、約19,500社の買い手候補が登録していると公表しています(特長)。
登録数は、自社に合う買い手の数や、いま買う意欲がある会社の数とは違います。面談では、自社の業態・規模に合う候補がどれだけいるか、最近いつ接触したかを聞いてください。
FAのしくみ
FAは、売り手か買い手のどちらか一方とだけ契約します。契約に基づき、依頼者の側で価格や条件の交渉を支援します。
- 中小企業ファイナンシャルアドバイザリーは「弊社は、M&Aの仲介はいたしません」と書いている(公式サイト)
- 同社は「取引の相手方からは報酬をもらいません」とも書いている
- 報酬の水準は「アドバイザリー報酬は、一般的な仲介会社の手数料と同水準です」と説明している
- オンデックは、仲介形式とFA形式で料金の計算方法を分けている(報酬体系)
仲介とFAの両方を扱う会社もあるため、会社名だけでは形が分かりません。面談では「今回の契約は仲介ですか、FAですか」と確かめてください。
FAでも、利益相反が完全になくなるわけではありません。成功報酬なら、成約を急ぐ動機は残ります。買い手との紹介関係や、ほかの業務での取引がないかも聞いてください。
ガイドラインが言う「利益相反」
利益相反とは、一方に有利にすると、もう一方に不利になる関係のことです。売り手は高く売りたく、買い手は安く買いたいので、両方から報酬を受け取る仲介は構造上この関係を抱えます。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、2026年10月時点で第3版(2024年8月)が最新です(中小企業庁)。ガイドラインと登録制度のルールでは、次の点が定められています。
| 決まりごと | 中身 |
|---|---|
| 契約前の重要事項説明 | 17項目を書面で説明する。手数料(最低手数料を含む)、相手方の手数料、利益相反などが入る |
| 優遇の禁止 | 追加の手数料を払う買い手や、何度も依頼するリピーターを優遇してはいけない |
| 広告・営業の禁止事項 | 即決を迫る、過大な値段を示す、成約できると断定する、などの営業をしてはいけない |
出典は中小M&Aガイドライン第3版と、M&A支援機関登録制度の公募要領です。
仲介を選ぶなら、重要事項説明の書面で「相手方からいくら受け取るか」を確かめてください。そのうえで「売り手の利益をどう守るのか」を直接聞くと、会社ごとの考え方が分かります。
手数料の構造の違い
当サイトに掲載している会社の公式情報から、仲介とFAの例を並べます。金額はすべて税別です。
| 会社(形) | 着手金 | 中間金 | 成功報酬の計算のもと | 最低報酬 |
|---|---|---|---|---|
| ストライク(仲介) | なし | 基本合意報酬100万円(資産総額10億円以下) | オーナー受取額 | 2,000万円 |
| インテグループ(仲介) | なし | なし | 株式価値 | 1,500万円 |
| 日本M&Aセンター(仲介) | 100万円から(簿価総資産2億円以下は100万円) | 報酬表に記載なし | 時価総資産 | 2,000万円 |
| M&Aキャピタルパートナーズ(仲介) | なし | 手数料総額の約10% | 株式価額 | 公式に記載なし(登録DBでは2,500万円) |
| 中小企業ファイナンシャルアドバイザリー(FA) | 公式に記載なし | あり(金額は非公開) | 譲渡金額 | 1,000万円 |
| オンデック(FA形式) | 公式ページで確認 | 公式ページで確認 | 移動総資産(≒譲渡額+負債総額) | 2,500万円 |
FAでは、着手金やリテーナー(作業期間中の月額報酬)を求める契約もあります。ファイブ・アンド・ミライアソシエイツは、事業再生のM&Aでは着手金・リテーナー契約の場合があると書いています(報酬体系)。
成功報酬だけを比べると、FAが高いとも安いとも言えません。破談しても戻らない費用があるかどうかで、負担の形が変わります。計算のもとの違いは手数料のしくみで説明しています。
複数の会社に相談するときの段階
「複数の会社に相談する」には、いくつかの段階があります。段階ごとに、外に出る情報とリスクが違います。
| 段階 | 外に出る情報 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 匿名での初期比較 | 業態や規模のおおまかな情報 | 社名を出さなければ、比較のための面談は数社でもしやすい |
| 秘密保持契約の後の資料開示 | 社名、決算書などの詳しい情報 | 渡す先が増えるほど、流出の窓口が増える |
| 委託契約(仲介・FA契約) | 契約した会社が資料を持つ | 専任かどうか、契約期間、テール条項を確かめる |
| 買い手への打診 | 買い手候補に会社の概要が伝わる | 複数の会社が同じ買い手に打診すると、心証を損ねることがある |
ガイドラインが注意しているのは、主に最後の段階です。複数の支援機関がマッチングを試みると、「譲り渡し側に関する情報が必要以上に外部に流出するおそれ」があるとしています。
例として、同じ売り手の情報が同じ買い手に複数から届くと、買い手の心証が害されうると書いています。そのうえで、単独に頼むか複数に頼むかは、利点と注意点を比べて選ぶよう求めています。
IT企業では、情報が漏れると困ることが多くあります。ガイドラインも、情報が伝わると「取引先の喪失や従業員の退職等」が起こりうると注意しています。
| 気をつける点 | 中身 |
|---|---|
| 情報の流出 | 社名や決算の情報が、渡した先の数だけ外に出る |
| 専任契約 | 1社としか契約できない形がある。M&Aベストパートナーズは専任契約形式と公表している |
| テール条項 | 契約が終わった後でも、その会社が紹介した相手と成約すると報酬がかかる場合がある |
ガイドラインは、テール期間を最長でも2〜3年以内を目安とするのが望ましいとしています。対象は、社名を開示して紹介された相手に限るべきとしています。社名を伏せた資料を見せただけの相手は、対象にすべきでないとしています。
これはガイドラインの考え方で、個々の契約の効力を決めるものではありません。実際の契約書でテール期間と対象の範囲を読み、不明な点は弁護士に確認してください。
比較の段階は匿名で始め、秘密保持の約束を交わしてから決算書を渡してください。契約前に、専任かどうかとテール条項の期間・対象を書面で確かめます。
どちらが向くかの判断表
| あなたの状況 | 比べ方 | 理由 |
|---|---|---|
| 買い手の候補がまだなく、広く探してほしい | 仲介・FAの名称ではなく、探し方で比べる | 探索の範囲、候補先リストの作り方、打診の方法は会社ごとに違う |
| 取引先や同業から「買いたい」と声がかかっている | 売り手側のFAや、交渉支援に強い会社を候補に入れる | 相手探しより、自分の側に立った条件交渉が必要になる |
| 価格や条件について、売り手側の助言者がほしい | 売り手側FAを候補に入れる | 交渉支援・法務対応・代理権の有無は契約で確かめる |
| 譲渡額が1億円前後で、手数料を抑えたい | 最低報酬の低い会社や、マッチングサイトも比べる | 大手の最低報酬2,000万〜2,500万円は、譲渡額1億円の2割を超える。支援の範囲も合わせて比べる |
| 仲介にするが、利益相反が気になる | 仲介(書面で確認) | 重要事項説明で、相手方の手数料と利益相反の扱いを確かめる |
譲渡額の見込みごとの比べ方は、IT企業の相談先の比較にまとめています。最低報酬の低い会社では、IT M&A支援センターやバトンズなどが候補になります。
面談で聞くこと
- 今回の契約は仲介か、FAか。支援の範囲(相手探し・交渉・契約・決済)はどこまでか
- 買い手からも報酬を受け取るか。受け取るなら、売り手の利益をどう守るのか
- 買い手候補のリストを、打診の前に売り手が確認できるか
- どこに接触し、どんな条件が出たかを、いつ・どう報告してくれるか
- 複数の提案が出たとき、どう並べて比べてくれるか
- 重要事項説明の書面をもらえるか(手数料、最低手数料、相手方の手数料、利益相反)
- 着手金・中間金はいつ発生し、破談したら戻るか
- 専任契約か。期間と途中で解約した場合の扱い
- テール条項の期間と、対象になる相手の範囲
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