IT企業のM&A
IT企業のM&A市場と、高く売れる会社の条件
IT企業がいくらで売れるかを、公的統計と上場企業の買収9件から整理し、値段が下がる原因と準備をまとめました。
確認 2026-10-04
3分でわかる要点
| 知りたいこと | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| IT企業の数 | 情報通信業は55,731社。99.0%が中小企業(2021年) | 中小企業庁 |
| 後継者がいない会社 | 54.1%(広告・調査・情報サービス、2025年)。全国平均は50.1% | 帝国データバンク |
| 社長の平均年齢 | 情報通信業は57.59歳。全産業は63.81歳(2025年) | 東京商工リサーチ |
| 売られたIT企業の数 | 上場企業が関わるM&Aで235件、業種別1位(2025年) | 民間の集計(M&A Online) |
| 中小M&Aの値段 | 情報サービス業の報告100件で、EV/EBITDAの中央値は9.7倍。全業種は7.3倍 | 中小企業庁 |
| 上場企業による買収 | 受託・SES・Webは売上の0.27〜1.40倍(7件、一時金ベース)。SaaSは1.67倍(1件) | 適時開示から当サイトが計算 |
| 値段が下がりやすい点 | 偽装請負、多重下請け、特定の顧客への依存、キーマン、ソースコードの権利 | 厚生労働省・公正取引委員会ほか |
9.7倍は、成約して報告された100件の集計です。すべてのIT企業の売却見込額を示すものではありません。同じ100件でも、中央の50%は4.9〜17.7倍に散らばっています。
業界の今
会社の数:小さい会社がほとんど
情報通信業の会社は、2021年時点で55,731社です。99.0%が中小企業で、67.5%は従業員20人以下の小規模企業です(中小企業庁)。
2016年の43,006社から、5年で12,725社増えました【試算:55,731−43,006】。全産業で会社の数が減るなか、増えている数少ない業種です。
- ソフトウェア業の事業所は25,977か所(2020年)
- 4人以下の事業所が40.3%
- 29人以下まで含めると79.2%【試算:(10,476+3,946+6,139)÷25,977】
- 出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」
市場の売上は増えている
情報サービス業の売上は、2025年に約37.0兆円でした【試算:月平均3兆805億円×12】。前年より10.1%増えています(総務省)。
2015年は約24.0兆円でした。ただし、2015年と2025年で調査対象や集計方法が同じかは確認できていません。10年の伸び率は目安として読んでください。
後継者がいない会社は半分以上
帝国データバンクは「ソフトウェア業」だけの数字を出していません。IT企業に最も近い区分は「広告・調査・情報サービス」です(帝国データバンク)。
| 年 | 広告・調査・情報サービス | 全国平均 |
|---|---|---|
| 2021年 | 70.1% | 61.5% |
| 2023年 | 61.4% | 53.9% |
| 2025年 | 54.1% | 50.1% |
2021年から16.0ポイント下がりましたが、全国平均より4.0ポイント高いままです【試算:54.1−50.1】。
情報通信業の社長の平均年齢は57.59歳で、産業別で唯一60歳を下回ります(東京商工リサーチ)。ただし、どの年齢の社長が、どんな理由で売っているかを業種別に数えた公的な統計は見当たりませんでした。
売り手市場なのか
「売り手市場」と言い切れる統計はありません。買い手の動きを示す数字は次のとおりです。
- 上場企業が関わるM&Aで売られたIT・ソフトウェア企業は、2019年の144件から2025年の235件に増えた。民間の集計で、運営はストライクグループ(M&A Online)
- 2025年の上場企業のM&Aは全体で1,344件(ストライク)。IT企業はその約17.5%【試算:235÷1,344】
- 中小M&Aの統計では、倍率が計算できた1,987件のうち情報通信業が153件(7.7%)(中小企業庁)
これらは集計の年度・対象・業種の区分がそれぞれ違います。件数や割合だけで、自社の売れやすさは判断できません。
誰が買うのか
買い手の動機は5つに分かれる
上場企業の買収の開示資料には、買う目的が書かれています。読み比べると、動機はおおむね次の5つです。
| 動機 | 開示に書かれた言葉 |
|---|---|
| エンジニアがほしい | クエスト「エンジニアリソースの強化」、バルテス「開発人材基盤のさらなる強化」、フーバーブレイン「エンジニア集団の構築」 |
| 仕事の範囲を広げたい | テスト会社のバルテスがSES会社を買い「一気通貫で提供」。コムチュア「上流・下流ケイパビリティの獲得」 |
| 地域の拠点・顧客がほしい | 東京のゼネテックが浜松の会社を買い「東海エリアでの事業拡大」 |
| 自社製品・継続収益がほしい | シャープがSaaS型ERPの会社を取得 |
| 事業承継の受け皿になる | SHIFTが候補先に「事業継承に課題を抱えている中小IT企業」と明記 |
なお、IT業界で事業会社とファンドの件数を分けた公的な統計は見当たりませんでした。
上場企業のIRに書かれたM&A方針
大手の買い手は、どんな会社をいくらで買うかをIR資料で公表しています。自社が候補になるかを考える材料になります。
| 会社 | 方針の要旨 | 出典 |
|---|---|---|
| SHIFT | 候補は「優秀なエンジニアが在籍していながら事業継承に課題を抱えている中小IT企業」など。価格は「EBITDA10倍以下を目安」 | 中期戦略 |
| SHIFT(2022年の説明) | 従来の基準は「EBITDA倍率5倍程度」。のれん償却後に赤字になる案件は基本的にやらない | 説明会資料 |
| コムチュア | M&Aによる売上を3年間の累計で50億円超に。AIや上流・下流の力を獲得 | 中期経営計画 |
| テクノプロ・ホールディングス | 「M&Aによる国内中核事業体の獲得」を掲げ、ROICの達成基準を設定 | 決算説明資料 |
| ゼネテック | グループ社員1,000名体制を早期に目指し、M&Aに積極的に取り組む | 適時開示 |
SHIFTは判断基準に「単価向上が見込めるか」「すぐに利益貢献できるか」も挙げています。この会社は、人数だけでなく単価と利益の出し方も見るということです。
いくらで売れるのか
値段の決まり方
中小企業庁のガイドラインでは、中小M&Aの値段を主に3つの方法で考えます(中小M&Aガイドライン第3版)。
- 簿価純資産法:帳簿の上の純資産(資産−負債)で考える
- 時価純資産法:資産を今の値段に置き直した純資産で考える
- 類似会社比較法:似た会社の倍率を、自社の利益に掛ける
純資産に「数年分の利益」を足して交渉することもあります。足す年数は「通常1年〜3年」とされています(M&A支援機関登録制度)。
中小M&Aでよく使うのは「EV/EBITDA倍率」です。EBITDAは、簡単に言うと「営業利益+減価償却費」で、本業で稼ぐ力を表します。
- 単純化した試算式:株式の値段 ≒ EBITDA × 倍率 −(借入金 − 現預金)
- 実際の代金は、利益の調整、負債や現預金に何を含めるか、運転資本、支払条件などで変わる
- 同じページには、非上場株は売りにくいため30%程度割り引くケースもある、との説明がある
30%の割引を、どの倍率にも自動で掛けないでください。下の統計は、非上場の中小企業が実際に成約した例の集計です。比べる倍率に何が織り込まれているかを、先に確かめます。
中小企業庁の統計で見る倍率
2024年度に株式譲渡で成約した中小M&Aの集計です。対象は登録支援機関が関わった案件で、財務データの報告は一部が任意です(中小企業庁)。
| 区分 | 指標 | 件数 | 下から25%の位置 | 中央値 | 上から25%の位置 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全業種 | EV/EBITDA | 1,987 | 3.6倍 | 7.3倍 | 15.5倍 |
| 情報サービス業 | EV/EBITDA | 100 | 4.9倍 | 9.7倍 | 17.7倍 |
| 全業種 | PBR(譲渡額÷純資産) | 2,830 | 0.7倍 | 1.3倍 | 2.5倍 |
| 情報サービス業 | PBR | 123 | 1.2倍 | 2.3倍 | 4.4倍 |
| 情報サービス業 | PER(譲渡額÷純利益) | 106 | 6.7倍 | 13.5倍 | 27.7倍 |
表の左右の数字は、最低値・最高値ではありません。件数の中央50%が入る範囲です。これより低い案件も高い案件もあります。
IT企業は設備や不動産が少ないので、純資産は小さくなりがちです。PBRの中央値は、全業種の1.3倍に対し、情報サービス業は2.3倍でした。
計算してみる【試算】
架空の会社で、上の単純化した式に当てはめます。EBITDAが3,000万円、借入金が5,000万円、現預金が8,000万円の会社です。
| 使う倍率 | 計算 | 株式の値段 |
|---|---|---|
| 下から25%の位置(4.9倍) | 3,000万円×4.9−(5,000万円−8,000万円) | 1億7,700万円 |
| 中央値(9.7倍) | 3,000万円×9.7−(5,000万円−8,000万円) | 3億2,100万円 |
| 上から25%の位置(17.7倍) | 3,000万円×17.7−(5,000万円−8,000万円) | 5億6,100万円 |
同じ利益でも、どの倍率を当てるかで3倍以上の差が出ます。倍率の差は、規模・成長性・利益の定義・取引条件などの違いから生まれます。この表だけでは、自社の倍率は決められません。
- 中小企業庁の株式価値の簡易計算(2026年4月20日公開)で、業種別の倍率を使った目安を自分で出せる
- 対象は黒字企業の株式譲渡のみで、非上場の割引は考慮されない
上場企業の買収9件で見る売上倍率【試算】
今回の収集対象は、上場企業が買い手で、取得価額と相手の業績が両方開示された案件です。2024〜2026年に発表されたIT企業の買収を集めました。
- 計算式:売上倍率 = 取得価額 ÷ 売上高
- 一部だけ取得した案件は、取得持分から100%に機械的に換算した値。実際に100%を買うときの値段とは限らない
- 例:バルテスHDがオプティムを買った例は、3億円÷6億1,055万円=0.49倍
- 取得価額には、アドバイザーへの費用を含めていない
| 公表日 | 買い手 | 買われた会社(業態) | 取得価額(確定分) | 売上高 | 売上倍率(確定分) | 追加対価を含む倍率 | 補足 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025-03-26 | クエスト | セプト(受託・派遣) | 3.7億円 | 13.7億円 | 0.27倍 | ― | 営業赤字。エンジニア約80名 |
| 2025-02-25 | ゼネテック | モアソンジャパン(受託) | 8億円 | 25.2億円 | 0.32倍 | ― | 営業利益率1.3% |
| 2024-07-18 | クラウドワークス | ソニックムーブ(Web・アプリ受託) | 4.1億円(一時金) | 9.6億円 | 0.43倍 | 最大1.05倍 | 業績次第で最大6億円を追加で支払う |
| 2025-09-18 | システムソフト | わさびほか(SES・DX) | 2.35億円 | 4.9億円 | 0.48倍 | ― | 売主が民事再生中 |
| 2026-09-25 | バルテスHD | オプティム(SES) | 3億円 | 6.1億円 | 0.49倍 | ― | 売上が3期連続で減少 |
| 2025-02-13 | 情報戦略テクノロジー | エー・ケー・プラス(SES・クラウド) | 8億円 | 8.9億円 | 0.90倍 | ― | 2回に分けて取得した合計 |
| 2024-09-30 | フーバーブレイン | イチアール(SES・受託) | 7億円(換算値。51.4%を3.6億円) | 5.0億円 | 1.40倍 | ― | 従業員61名 |
| 2026-03-02 | シャープ | シナプスイノベーション(SaaS) | 38億円 | 22.7億円 | 1.67倍 | ― | 自社製品と継続収益 |
| 2026-09-14 | ヴィス | パドルデザインカンパニー(Web制作) | 1.75億円 | 非公開 | ― | ― | 買い手が「EV/EBITDA約6.5倍」と開示 |
「―」は、今回読んだ開示資料に追加対価の記載がなかったものです。ソニックムーブの「最大1.05倍」は、一時金4.1億円に最大6億円を足し、売上9.6億円で割った値です【試算:10.1÷9.6】。条件を満たした場合の上限で、確定した支払額ではありません。
出典は各社の適時開示です(例:バルテスHD、シャープ、ヴィス)。
9件のうち、売上倍率を計算できたのは8件です(ヴィスの案件は売上が非公開)。このうち受託・SES・Webの7件を確定分で小さい順に並べると、真ん中(4番目)は0.48倍です。範囲は0.27〜1.40倍でした。
この9件は統計ではありません。今回の収集対象は上場企業が買い手の公表案件で、中小企業どうしの案件は入っていません。借入金や現預金も調整していないので、EV倍率とも違います。
業態ごとの違い
業態別の公的な価格統計はありません。ここでは、上の9件と公的資料から言える範囲を並べます。
| 業態 | 買い手が開示した理由 | 今回の案件の値段 | 見られやすい点 |
|---|---|---|---|
| 受託開発 | エンジニアと顧客基盤、地域の拠点 | 利益率が低い2件は売上の0.27〜0.32倍 | 元請か下請か、特定顧客への依存、ソースコードの権利 |
| SES | エンジニアの確保 | 4件で売上の0.48〜1.40倍 | 準委任か派遣か、偽装請負、派遣許可 |
| Web制作 | 直接の取引先とリピート | 買い手開示でEV/EBITDA約6.5倍(16名の会社) | 直取引の割合、リピート率 |
| SaaS | 自社製品と継続収益 | 1件で売上の1.67倍。営業利益はほぼゼロ | 継続収益の質、製品の権利 |
業態だけでは倍率は決まりません。同じSES・受託でも0.27〜1.40倍の開きがあります。利益、成長、財務、取得の条件が案件ごとに違うためです。
SaaSの1.67倍は1件だけの値です。製品の種類や、売上に占める継続収益の比率は確認できていません。
ヴィスが買った会社の強みとして開示されたのは、「直取引90%・リピート率70%・取引実績3,000件超」でした。数字で示せる強みは、買い手が事業を評価する材料になります。
中小M&Aの統計には「職業紹介・労働者派遣業」のPBR中央値1.6倍もあります(中小企業庁)。ただし、この区分とSESは事業や資産の構成が違います。SESの値段の目安には使わないでください。
上場SaaS企業の平均PSR(時価総額÷売上)は、2025年3月28日時点で4.4倍でした。民間の集計です(ファーストライト・キャピタル)。上場企業の株価の話なので、非上場の会社の売却価格とはそのまま比べられません。
値段が下がる原因(買い手の調査で見られる点)
買い手は契約の前に、会社の中身を細かく調べます。この調査を「デューデリジェンス(DD)」と呼びます。IT企業で特に見られるのは次の点です。
| 見られる点 | なぜ値段や条件に響くか | 確かめる資料 |
|---|---|---|
| 偽装請負 | 問題があれば、是正の負担を買い手が引き継ぐおそれがある | 客先常駐の契約書、指示の出し方 |
| 多重下請け | 単価を上げにくく、利益が伸びにくい | 取引先別の売上、商流 |
| 特定顧客への依存 | その顧客を失うと売上が大きく減る | 上位顧客の売上比率、基本契約 |
| キーマン | 社長や一部の人が辞めると事業が回らない | 組織図、担当の偏り |
| ソースコードの権利 | 自社の資産だと思っていたものが、顧客のものかもしれない | 受託契約の著作権条項 |
| 取適法(旧下請法)・フリーランス法 | 取引のルール違反は是正が必要になる | 発注書、支払条件 |
偽装請負(SES・客先常駐)
厚生労働省の「37号告示」が、請負と派遣を分ける基準です(厚生労働省)。準委任契約でも、客先が作業者に直接指示している実態があれば、偽装請負を疑われる要素になります。
同省のQ&A(疑義応答集 第3集)は、契約の形ではなく実態で判断するとしています(疑義応答集)。双方が対等に協働し、受注側が自律的に判断して開発する場合を、偽装請負と判断されない例として示しています。
個別の案件がどちらに当たるかは、指示の仕方や体制など全体の事情で決まります。当サイトは個別の判断をしていません。気になる案件は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。
- 2026年5月25日、このQ&AにQ8が追加された
- 内容は「これまでの考え方は、アジャイル型開発以外のシステム開発にも当てはまる」
- SES会社の点検方法はSES会社を売る前に確かめることで説明しています
多重下請けと特定顧客への依存
公正取引委員会の調査では、資本金3億円以下のソフトウェア業のうち、元請は40.4%でした。中間下請が38.2%、最終下請が21.3%です(公正取引委員会)。
- 最終下請の44.6%は、売上の90%以上が下請の仕事
- 最終下請の17.5%は、最大の取引先1社への依存度が90%以上
- 商流に形だけ入って利益を取る「中抜き」を感じたことがある最終下請は33.5%
買い手の開示には「直取引90%」や「事業会社の顧客を持つ大型プライムベンダー」が評価点として出てきます。元請の比率と顧客の分散は、買い手が事業の続きやすさと収益性を確かめる材料です。
大口顧客との基本契約に「チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項」があるかも確かめます。株主が変わったときの扱いを定めた条項です。相手への通知、相手の承諾、相手の解除権など、中身は契約ごとに違うので、条文を読んで確認します。
キーマンへの依存と、社員に伝える時期
ガイドラインは、情報が漏れると「取引先の喪失や従業員の退職等」が起こりうるとしています(中小M&Aガイドライン第3版)。そのため、誰に・何を・いつ伝えるかを段階で分けて考えます。
| 段階 | 伝える相手の例 | ガイドラインの考え方 |
|---|---|---|
| 最終契約の前 | 幹部役員など、ごく一部 | 極秘に、ごく一部の関係者だけに知らせることもある |
| 最終契約の後〜クロージング後 | それ以外の社員 | 原則として、可能な限りクロージング後(早くとも最終契約後) |
ガイドラインは、知らせる時期をまず売り手と買い手で話し合うよう求めています。引継ぎに欠かせない人に早めに伝えるかは、買い手と相談して決めてください。
社長や特定のエンジニアが辞めると困る会社では、「アーンアウト」が使われることがあります。売却後の業績などの目標を達成したときに、追加の代金が払われる約束です。
- アーンアウトは、条件を満たさなければ払われない。確定した代金を後で受け取る「分割払い」とは別物
- 期間は3年以内が多い(ガイドライン)
- 実例:クラウドワークスはソニックムーブを一時金4.1億円で買い、業績次第で最大6億円を追加で払う契約にした
- ガイドラインは、目標が曖昧だと争いになりやすいとも注意している
ソースコードの権利
IPAの契約書ひな型は、受託開発の著作権について3つの案を用意しています(IPA)。
- A案:すべて受託側(ベンダ)のもの
- B案:汎用的な部品は受託側、それ以外は顧客のもの
- C案:汎用的な部品は受託側、それ以外は共有
自社の部品やパッケージを「会社の資産」として評価してもらうには、主な顧客との契約でどの形かを示す必要があります。
取適法(旧下請法)とフリーランス法
どちらも、対象になるかは取引の内容と当事者の条件で決まります。下は公正取引委員会のリーフレットの要約です。自社が対象かは原資料で確かめてください。
- 取適法:下請法が改正され、2026年1月1日に施行された。資本金の基準に、従業員数の基準(300人、100人)が加わった(公正取引委員会)
- 取適法では、手形での支払いや、協議に応じない一方的な代金の決定が禁止された。プログラム作成の委託は対象取引に入る
- フリーランス法:2024年11月1日施行。従業員を使わない個人に業務を委託するときのルール(公正取引委員会)
- フリーランス法では、取引条件を書面などで示す義務がある。従業員を使う発注者は、受け取った日から60日以内のできる限り早い日を支払期日にする(例外あり)
買い手は、こうした取引のルールを守っているかも確かめます。
売る前にやること
売ると決めていなくても、次の点は今から整えられます。どれも買い手の調査で聞かれる内容です。
会社の中身
- 取引先ごとの売上を一覧にし、上位3社の比率と、元請・下請の別を書き出す
- 客先常駐の案件ごとに、準委任か派遣か、誰が作業の指示をしているかを確かめる
- 派遣の仕事があるなら、派遣許可の有無と期限を確かめる
- 大口顧客の基本契約に、株主が変わったときの条項(通知・承諾・解除など)がないか読む
- 受託開発の契約で、ソースコードの著作権がどの案になっているかを整理する
- フリーランスへの発注書と支払いの期日が、フリーランス法・取適法に合っているか確かめる
- 社長しか知らない営業先・技術・手順を書き出し、引き継げる人を決める
社長自身の希望と、お金の受け取り方
値段と同じくらい、売った後の条件で結果が変わります。相談先には、次の希望を最初から伝えてください。
- 退任の時期:すぐ辞めたいのか、何年なら残れるのか。引継ぎのため、一定期間残るよう求められることがある
- 社員の雇用:雇用・給与・勤務地をどこまで守ってほしいか。最終契約に書けるかを確かめる
- 個人保証:会社の借入に社長個人の保証が付いているか。売却時に外す手順と時期を決めておく
- 会社への貸付金:社長が会社に貸したお金や、会社から借りたお金を一覧にする。返済か、代金に含めるかで手取りが変わる
- 代金の支払条件:確定した代金と、条件付きの代金(アーンアウトなど)を分けて確かめる。分割払いは不払いのリスクもある
ガイドラインは、経営者保証が移る予定だったのに移らないトラブルを挙げています(中小M&Aガイドライン第3版)。保証の扱いは、最終契約で具体的に決めてください。
目安と相談先
- EBITDA(営業利益+減価償却費)を出し、株式価値の簡易計算で目安を出す
- 目安の金額で手数料の計算をし、IT企業の相談先の比較で候補を絞る
相談先の選び方は、仲介とFAの違いと手数料のしくみも参考にしてください。
LINEで相談先を聞くどこに相談すればいいか、手数料はいくらか。社名を出さずにLINEで聞けます。
LINEで相談先を聞く会社名なしで相談できます。サイト運営:株式会社楽笑
担当者が内容を読んで返信します。売り込みや営業電話はしません。相談内容を相談先に伝えるのは、ご本人が希望し、伝える先と内容に同意した場合だけです。情報の取扱い