IT企業のM&A

SES会社を売る前に確かめること

偽装請負・派遣許可・多重下請けは、SES会社の売却で確認されやすい点です。理由と、自社でできる点検をまとめました。

確認 2026-10-04

目次(7項目)
  1. SES会社はどう評価されているか
  2. なぜ偽装請負が値段に響くのか
  3. 派遣許可と売り方
  4. 多重下請けと単価
  5. フリーランスへの再委託と取引のルール
  6. 情報の扱いとエンジニアの退職
  7. 自社でできる点検

SES会社はどう評価されているか

上場企業がSES会社を買うとき、開示資料に書かれる目的は主に「エンジニアの確保」です。値段は、売上に対して次のような倍率でした。

公表日買い手買われた会社売上倍率【試算】開示に書かれた目的・補足
2025-03-26クエストセプト(受託・派遣)0.27倍「エンジニアリソースの強化」。約80名で1人約460万円【試算:3.7億円÷80名】
2025-09-18システムソフトわさびほか(SES・DX)0.48倍売主が民事再生中という特殊な事情
2026-09-25バルテスHDオプティム(SES)0.49倍「開発人材基盤のさらなる強化」。業務委託と派遣を併用
2025-02-13情報戦略テクノロジーエー・ケー・プラス(SES・クラウド)0.90倍2回に分けて100%を取得
2024-09-30フーバーブレインイチアール(SES・受託)1.40倍「エンジニア集団の構築」。61名で1人約1,150万円【試算:100%換算の7億円÷61名】

売上倍率は「取得価額÷売上高」で、当サイトが各社の適時開示から計算しました。一部だけ取得した案件は、取得持分から100%に機械的に換算した値です。5件だけなので統計ではありません。詳しくはIT企業のM&A市場と、高く売れる会社の条件にまとめています。

中小M&Aの公的統計には、SESに近い「職業紹介・労働者派遣業」の区分があります。PBR(譲渡額÷純資産)の中央値は1.6倍です(中小企業庁)。ただし、この区分とSESは事業や資産の構成が違います。SESの値段の目安には使わないでください。

ポイント

今回の5件だけでも、売上の0.27〜1.40倍と値段に差があります。利益・成長・財務・取得条件が案件ごとに違うためです。買い手が何を確かめるかは公的資料から読み取れるので、先に点検しておけます。

なぜ偽装請負が値段に響くのか

偽装請負とは

厚生労働省の「37号告示」は、請負と派遣を分ける基準です。SESでよく使う準委任契約も、請負と同じ基準で判断されます。請負と認められる条件は次のとおりです(厚生労働省)。

同省のQ&A(疑義応答集 第3集)は、判断の考え方を具体的に示しています(疑義応答集)。

Q&A中身
Q1準委任契約でも、実態として客先とエンジニアの間に指揮命令の関係があれば、派遣にあたるとする。客先が直接具体的に指示している場合などを、偽装請負と判断される例として示す
Q2双方が対等な関係で協働し、受注側の担当者が自律的に判断して開発する場合を、偽装請負と判断されない例として示す
Q8(2026年5月25日追加)Q1〜Q7の考え方は、アジャイル型開発以外のシステム開発にも当てはまる

Q8の追加で、アジャイル開発に限った話ではないことがはっきりしました。客先常駐の多いSES会社は、すべての現場が点検の対象になります。

個別の現場がどちらに当たるかは、指示の仕方や体制など全体の事情で決まります。当サイトは個別の判断をしていません。

買い手から見たリスク

会社ごと売る株式譲渡では、会社の過去の契約や働き方も、そのまま買い手に引き継がれます。そのため買い手は、次の点を確かめます。

問題が見つかると、契約の切り替えや働き方の見直しが必要になります。その手間とリスクの分だけ、値段の引き下げや契約条件の追加を求められることがあります。

一方で、派遣と準委任を併用していても買収された例はあります。バルテスHDが買ったオプティムは「業務委託と人材派遣の双方を活用」と開示されています。大事なのは併用の有無ではなく、契約と実態が合っていることです。

派遣許可と売り方

派遣の仕事がある会社は、売り方によって許可の扱いが変わります。厚生労働省の業務取扱要領(令和8年10月1日適用版)の内容です(厚生労働省)。

売り方派遣許可の扱い
株式譲渡(会社ごと売る)会社そのものは変わらない。同じ箇所に取り直しの記載はない
事業譲渡(事業だけを売る)吸収分割に準じる。買い手が許可を持っていなければ、新しく許可を取る必要がある
吸収合併(買い手の会社に吸収される)残る会社が許可を持っていなければ、新しく許可を取る必要がある。合併日に合わせて前もって申請できる

派遣の仕事を事業譲渡で切り出すと、買い手の側で許可の取り直しが必要になる場合があります。売り方を決める前に、相談先と確認してください。

多重下請けと単価

公正取引委員会の調査では、資本金3億円以下のソフトウェア業のうち、最終下請(一番下の階層)が21.3%でした(公正取引委員会)。

買い手もこの点を見ています。SHIFTはM&Aの判断基準に「付加価値が高く今後の単価向上が見込めるか」を挙げています。候補先には「事業会社の顧客を持つ大型プライムベンダー」を挙げています(SHIFT)。

商流の下にいるほど、間に入る会社が増え、単価を上げにくくなります。取引先ごとに「何次請けか」を示せると、買い手が単価の伸びしろを判断しやすくなります。

フリーランスへの再委託と取引のルール

フリーランスのエンジニアに仕事を出しているSES会社は、次の法律に合っているかも確かめられます。

法律中身出典
フリーランス法(2024年11月1日施行)従業員を使わない個人に委託するとき、取引条件を書面などで示す。従業員を使う発注者は、受け取った日から60日以内のできる限り早い日を支払期日にする(例外あり)公正取引委員会
取適法(2026年1月1日施行、旧下請法)プログラム作成の委託も対象。資本金の基準に従業員数の基準(300人、100人)が加わった。手形での支払いや、協議に応じない一方的な代金の決定が禁止された公正取引委員会

公取委の2022年の調査では、元請の55.0%、中間下請の46.1%が資本金1,000万円以下でした。資本金の基準だけだった旧下請法では、そこからの発注は対象外になりやすかったのです。従業員数の基準が加わり、対象になる取引が変わっています。自社が対象かは、取引の内容と双方の資本金・従業員数で原資料を確かめてください。

情報の扱いとエンジニアの退職

SES会社の価値の中心はエンジニアです。売却の話が早く漏れると、その価値そのものが減るおそれがあります。

ガイドラインは、情報が伝わってM&Aが止まると「取引先の喪失や従業員の退職等」が起こりうると注意しています(中小M&Aガイドライン第3版)。そのため、誰に・いつ伝えるかを段階で分けます。

自社でできる点検

売ると決める前からできる点検です。どれも買い手の調査で聞かれる内容です。

点検すること見る資料確かめ方
契約の形客先ごとの契約書案件一覧に、準委任・派遣・請負の別を書き込む
指示の実態現場の体制図現場のエンジニアに、誰から作業の指示を受けているか聞く
派遣許可許可証派遣契約があるなら、許可の有無と有効期限を確かめる
商流取引先別の売上元請・一次請け・二次請け以下に売上を分ける
顧客への依存取引先別の売上最大の取引先と上位3社の比率を出す
解除条項客先との基本契約株主が変わったときの解除・通知の条項を探す
フリーランスとの取引発注書、支払いの記録条件を書面などで示しているか。受け取った日から60日以内の支払期日を決め、守っているか
下請けへの支払い発注書、支払方法手形を使っていないか、代金を一方的に決めていないか

問題が見つかったら、売却の相談を始める前に、社会保険労務士や弁護士に相談して直しておくと安心です。買い手の調査で、何をいつ直したかを説明できるようにしておきます。

SES会社向けのページを公開している相談先もあります(パラダイムシフト、インテグループなど)。手数料は手数料の計算で比べ、IT企業の相談先の比較で候補を絞ってください。

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