歯科医院のM&A

歯科医院の承継・売却市場と、引き継がれる医院の条件

歯科診療所の数、歯科医師の年齢、個人開業と医療法人の違い、保健所・厚生局の手続き、売却価格の考え方を公的資料で整理しました。

確認 2026-10-04

目次(9項目)
  1. 3分でわかる要点
  2. 業界の今
  3. 歯科医師の年齢
  4. 個人開業と医療法人
  5. 承継の手続き
  6. 売却価格の考え方
  7. 公的な承継の窓口
  8. 引き継がれる医院の条件
  9. 見つからなかったもの

3分でわかる要点

知りたいこと数字出典
歯科診療所の数65,624施設(2025年10月)。前年より754施設減った厚生労働省
開設者の内訳個人47,539施設(72.4%)、医療法人17,395施設(26.5%)厚生労働省
歯科医師の年齢医療施設で働く歯科医師の36.8%が60歳以上(2024年末)厚生労働省から当サイトが計算
診療所の歯科医師平均55.2歳。開設者・法人の代表者は54,170人厚生労働省
医療法人の持分社団のうち持分あり35,104、持分なし24,410(医科・歯科の合計)厚生労働省
中小M&Aの値段医療業はEBITDAの7.8倍(中央値、51件。株式譲渡の集計)中小企業庁
承継の手続き個人開業は保健所へ廃止届・開設届、厚生局へ指定の申請医療法・厚生局
ポイント

歯科医院の承継は、個人開業か医療法人かで形が変わります。個人開業は事業譲渡で開設者が変わります。医療法人では、法人を残して持分や役員を引き継ぐ方法があります。

業界の今

歯科診療所は2017年から減り続けている

2025年10月1日の歯科診療所は65,624施設です。前年より754施設(1.1%)減りました(厚生労働省「令和7(2025)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)。

統計表の年の中では、2017年の68,609施設が最も多くなっています。それ以降は、毎回減っています(同 統計表)。

年(各年10月1日)総数うち医療法人うち個人
2005年66,7328,97157,110
2011年68,15611,07456,481
2017年68,60913,87154,133
2020年67,87415,16152,103
2023年66,81816,67749,522
2024年66,37817,05348,667
2025年65,62417,39547,539

個人は減り、医療法人は増えた

個人の歯科診療所は、2005年の57,110施設から2025年は47,539施設になりました。医療法人は、2002年の7,499施設から2025年は17,395施設に増えています。

2025年は前年と比べて、医療法人が342施設増え、個人が1,128施設減りました。それでも、全体の72.4%はまだ個人開業です。

廃止の数は、閉院の数ではない

2024年10月〜2025年9月に、開設は1,282施設、廃止は1,915施設でした。

年開設再開廃止休止
2021年1,352701,252145
2022年1,3331071,410174
2023年1,4541012,037455
2024年1,3631111,748166
2025年1,282721,915193

この「廃止」には、移転と開設者の交代も含まれます。個人の医院を譲ると、旧院長の廃止と新院長の開設が1件ずつ数えられます。

注意

承継の件数そのものを数えた公的な統計は、見つかりませんでした。廃止の件数から、閉院や承継の数は分かりません。

歯科医師の年齢

60歳以上が36.8%

2024年末に届け出た歯科医師は103,652人で、2022年より1,615人(1.5%)減りました。出典は厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」です。

医療施設で働く歯科医師は100,266人です。年齢別では、60〜69歳が22,970人(22.9%)で最も多くなっています。

年齢人数
29歳以下5,943人
30〜39歳16,119人
40〜49歳19,701人
50〜59歳21,558人
60〜69歳22,970人
70歳以上13,975人

60歳以上を足すと36,945人で、全体の36.8%です(当サイトの計算)。70歳以上は前回より1,142人増え、30〜39歳は823人減りました。

診療所の歯科医師は平均55.2歳

施設別の平均年齢は、診療所が55.2歳です。病院(医育機関附属を除く)は46.5歳でした。

診療所の開設者または法人の代表者は54,170人です。2022年の56,767人から、2,597人(4.6%)減りました。

個人開業と医療法人

医療法人には株式がない

医療法人は、剰余金の配当ができません(医療法 第54条)。理事長は、原則として医師か歯科医師の理事から選びます(同 第46条の6、e-Gov法令検索)。

医療法人には株式がありません。持分ありの法人は、出資持分の譲渡と社員・理事の入れ替えで引き継ぎます。持分なしの法人は持分を売れません。社員・理事の入れ替えに合わせ、役員退職金などで対価を受け取る方法が考えられます。具体的な方法と税金の扱いは、税理士などの専門家に確かめてください。

持分ありの法人は減っている

2026年3月末の医療法人は59,893法人です(医科・歯科の合計)。社団のうち持分ありは35,104、持分なしは24,410でした(厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」)。

持分ありは2008年の43,638をピークに減っています。持分なしは、2008年の1,034から増えました。

承継の手続き

個人開業と医療法人で、届出が違う

項目個人開業(事業譲渡)医療法人(持分譲渡・役員の交代)
譲渡の形設備・内装・カルテなどを譲る。開設者が変わる法人はそのまま。出資持分の譲渡、社員・理事の入れ替え
保健所旧院長が廃止後10日以内に廃止届、新院長が開設後10日以内に開設届開設届は不要。役員変更届を遅滞なく都道府県知事へ
厚生局(保険診療)保険医療機関の廃止届と、新しい指定の申請新しい指定は不要。理事長・管理者の変更は届出
契約賃貸借・リース・雇用は原則として結び直し契約の当事者は法人のため、原則そのまま

出典は、医療法 第8条・第9条、医療法施行令 第5条の13(e-Gov法令検索)です。契約の扱いは、名南M&AのFAQとD-TransitのQ&Aの説明によります。

保険診療を休まずに引き継ぐには

開設者が変わると、それまでの医療機関は廃止になります。新しい開設者が、医療機関を開設する扱いです(関東信越厚生局 よくあるご質問)。

保険医療機関の指定は、原則として翌月1日です。ただし次の場合は、さかのぼる指定(遡及指定)が例外的に認められます。

遡及の手続きでは、開設後に廃止届と指定申請書を出します。あらかじめ厚生局の事務所に相談します。同じ施設基準を算定するなら、施設基準の届出も改めて必要です。

注意

D-TransitのQ&Aは、遡及のために買い手が売り手の医院で一定期間勤める必要があると説明しています。期間は「一般的には3ケ月程度」で、地域によって異なるとしています。厚生局の公式FAQには、勤務期間の記載はありません。

売却価格の考え方

公的な評価方法

中小M&Aガイドライン(第3版)は、純資産や類似会社の倍率で価値を算定して交渉するケースが多いとしています。純資産に数年分の利益を加える場合もあります(中小企業庁)。

中小M&Aの実際の倍率

中小企業庁のM&A支援機関登録制度は、2024年度の株式譲渡の倍率を公表しています(中小M&Aに関する集計結果)。

区分件数EV/EBITDAの中央値中央の半分の範囲
全業種1,987件7.3倍3.6〜15.5倍
医療、福祉150件8.5倍3.5〜19.0倍
医療業51件7.8倍3.3〜16.4倍

右の列は最低値・最高値ではなく、件数の中央50%が入る範囲です。これより低い案件も高い案件もあります。

注意

これは株式譲渡の集計です。医療法人には株式がなく、個人開業は事業譲渡です。歯科医院の典型的な取引がどれだけ含まれるかは、公表資料に書かれていません。歯科だけの倍率も公表されていません。

仲介会社の説明(公的資料ではない)

院継は、営業利益をもとにした事業価値に、設備や内装の資産価値を加えるのが基本と説明しています。年間カルテ枚数・自費比率・立地・設備の状態が、金額を大きく左右するとしています。

D-Transitの簡易査定は、レセプト枚数・医業収入・立地・階層・経年をもとに算出します。土地建物を含まない、事業譲渡の価格です。

公開されている譲渡希望価格の例もあります。ユメオカの案件No.258は、個人開業で売上約8,200万円、譲渡希望2,500万円です。営業利益・減価償却費・役員報酬の合計1,775万円に対し、約1.4倍でした(当サイトの計算)。

注意

これは売り手の希望額で、成約額ではありません。院長の所得を含む利益に対する倍率なので、上のEV/EBITDAとは定義が違います。

公的な承継の窓口

県と歯科医師会のマッチング

福島県は県の事業として、譲りたい歯科医師と開業したい歯科医師のマッチングを支援しています。実施機関は福島県歯科医師会です(福島県)。

登録している歯科診療所は14件です(公開9件・非公開5件、2026年9月7日現在)。承継バンク経由で開業する診療所には、施設・設備の整備費に補助があります。補助基準額は4,000万円、補助率は1/2以内です(福島県歯科医業承継バンク)。

事業承継・引継ぎ支援センター

国の事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継の成約は、令和7年度に2,265件でした(全業種)。歯科(医療業)だけの件数は、公表資料で確認できませんでした。

各社の窓口は歯科医院の相談先の比較に載せています。

引き継がれる医院の条件

公的資料と各社の公式説明から、譲る前に整理しておきたい点をまとめます。

確かめる点理由
個人開業か医療法人か。法人なら持分の有無譲り方・届出・対価の受け取り方が変わる
患者を途切れさせずに引き継げるか遡及指定は、患者が引き続き受診していることなどが条件
カルテ枚数・レセプト枚数・医業収入仲介会社が、価格を左右する要素に挙げている
自費比率・立地・設備の状態同じく価格を左右する要素として挙げられている
賃貸借・リース・スタッフの雇用個人開業の事業譲渡では、原則として結び直しになると仲介会社が説明している
ポイント

これらは値段を保証する条件ではありません。買い手が確かめる点を先に整理しておくと、相談先との話を進めやすくなります。

見つからなかったもの

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