保育園のM&A

保育園のM&A市場と、売れる園の条件

保育園の譲渡がどう増えているか、いくらで引き継がれているかを、こども家庭庁の調査と公的資料で整理し、法人の種類ごとの注意点と準備をまとめました。

確認 2026-10-04

目次(9項目)
  1. 3分でわかる要点
  2. 業界の今
  3. 合併・事業譲渡は、まだ一部の事業者だけ
  4. 誰が買うのか
  5. 法人の種類で、使える方法が変わる
  6. いくらで売れるのか
  7. 仲介会社の使われ方と手数料
  8. 譲渡がうまくいかなかった例
  9. 売る前にやること

3分でわかる要点

知りたいこと数字出典
保育所等の数40,046か所・定員約302万人(2026年4月)こども家庭庁
運営している法人社会福祉法人51%・公立27%・会社11%(2022年度)社会福祉施設等調査
定員の埋まり方全国87.7%。過疎地域は72.7%で、5年で8.6ポイント低下こども家庭庁
倒産・休廃業2025年は46件で、2000年以降で最多帝国データバンク
合併・事業譲渡の打診経験があるのは回答9,597事業者の7.5%こども家庭庁の実態調査
仲介会社の利用事業譲渡等157件のうち43件(27.4%)同上
社会福祉法人の譲渡価格無償、数十万〜数百万円、建物・設備の残存価値相当が多いこども家庭庁のガイドライン
株式譲渡の倍率社会保険・社会福祉・介護事業の報告99件で、EBITDAの中央値は9.0倍(介護を含む)中小企業庁
ポイント

保育園は、運営する法人の種類で売り方が変わります。会社なら株式譲渡ができますが、社会福祉法人には株式がありません。社会福祉法人の譲渡は、値段より「承継」が目的になることが多いとされています。

業界の今

園の数は横ばい、会社の運営が増えた

保育所等は2026年4月時点で40,046か所です。利用定員は3,016,417人、利用している子どもは2,646,756人でした(こども家庭庁)。

運営しているのは、社会福祉法人が51%、公立が27%、会社が11%です(2022年度)。会社が運営する園は、4年で1,975か所から3,278か所に増えました。増加率は66%です【試算:3,278÷1,975−1】(こども家庭庁資料)。

企業主導型保育は、2026年3月時点で4,290施設・定員102,312人分です。2022年3月の4,489施設から、4年で199施設減りました【試算:4,489−4,290】(児童育成協会)。

待機児童は減り、定員割れが広がる

待機児童はピークの2017年に26,081人でした。2026年は2,435人で、全国の市区町村の89.1%で0人です。ただ2026年は前年より181人増え、9年ぶりの増加でした。

一方で、定員がどれだけ埋まっているかを示す「定員充足率」は下がっています。2026年は全国で87.7%、都市部は90.9%、過疎地域は72.7%です。

地域定員充足率(2026年4月)5年間の変化
全国87.7%逓減傾向
都市部90.9%▲2.1ポイント
過疎地域72.7%▲8.6ポイント

こども家庭庁は「特に過疎地域においては利用定員の縮小や施設の統廃合の進行が予想される」としています。保育の申込者数も、2019年をピークに減っています(こども家庭庁 取りまとめ全体版)。

倒産・休廃業は過去最多

2025年に倒産した保育園の運営事業者は14件で、前年の7件から倍になりました。休廃業・解散は32件で、合わせて46件です。2000年からの集計で最も多い数です(帝国データバンク)。

合併・事業譲渡は、まだ一部の事業者だけ

こども家庭庁は2025年11〜12月に、全国の保育事業者へ調査をしました。回答した9,597事業者のうち、92.5%は合併や事業譲渡の打診をしたことも受けたこともありません(こども家庭庁 実態調査報告書)。

ただ、件数は直近で増えています。回答事業者が報告した件数は次のとおりです。

譲る理由、引き受ける理由

譲る側の理由で多いのは「経営者の高齢化、健康問題、後継者難」15件です。「不況による収入の減少」11件、「人口減少により保育人材の確保が困難」10件、「人件費高騰」9件が続きます。

引き受ける側では「経営困難な事業者の救済」26件、「後継者不足の事業者の救済」16件が上位です。

話がまとまらなかった理由

打診があっても合併・譲渡に至らなかった理由は、「必要性を感じなかった」が48.7%で最多です。次が「経営上の条件調整(主に財務面)が困難」14.6%でした。

誰が買うのか

上場している保育の運営会社には、M&Aを方針として公表している会社があります。いずれも各社の開示資料に書かれた内容です。

会社公表している内容
JPホールディングス(2749)中期経営計画で「同業他社を含めたM&Aを積極的に推進」と記載(2026年5月)
ソラスト(6197)都内中心に認可保育所等19か所を運営する会社を子会社化。現経営陣は引き続き経営に従事(2022年3月)
ライク(2462)西東京市で認可保育園3園を運営する会社の全株式を取得(2024年7月)

売る側に回る上場企業もあります。グローバルキッズCOMPANY(6189)は、2023年以降、認可保育所などを社会福祉法人へ何度か事業譲渡しています。目的は、収支が見込める地域に経営資源を集めることと説明されています(日本M&Aセンターのニュース要約)。

ポイント

同社は、横浜市の小規模保育1施設を2,400万円(税抜)で譲渡すると開示しました。1件の開示例で、相場を示す数字ではありません。

法人の種類で、使える方法が変わる

株式会社・有限会社

会社なら、株式を売って経営者が替わる方法が使えます。設置者はそのままで経営責任者だけを替える場合は、都道府県への事前届出の規定があります(児童福祉法施行規則37条6項)。

ただ、こども家庭庁の資料に「株式譲渡」という言葉は出てきません。自分の園がどの手続きになるかは、自治体に確かめてください。

社会福祉法人

社会福祉法人には株式も持分もありません。引き継ぐ方法は合併か事業譲渡です。基本財産を処分するには、理事会・評議員会の議決と所轄庁の承認が必要です。

対価の扱いも違います。ガイドラインは、社会福祉法人・学校法人・NPO法人が譲渡で対価を得ても、理事などは受け取れないと説明しています。会社なら、受け取った対価を株主へ配当できます(こども家庭庁 ガイドライン)。

注意

ガイドラインは、役員退職金が「事業譲渡対価」と受け取られないようにする対応を求めています。退職金規程の根拠、理事会・評議員会の決議、譲渡対価と切り離されていることなどです。

設置者が変わる認可保育所

事業譲渡で設置者が変わる場合、今の設置者が保育所の廃止の承認を受けます。そのうえで、新しい設置者が設置の認可を申請します(児童福祉法35条)。市町村による施設型給付の「確認」の手続きも別に必要です。

企業主導型保育

助成金で整備した施設の財産処分には、児童育成協会とこども家庭庁の承認が必要です。整備費の助成を受けていない施設の設置者変更も対象です。譲渡は処分予定日の遅くとも6か月前までに申請します(児童育成協会)。

いくらで売れるのか

値段の決まり方

ガイドラインが示す基本の式は「譲渡資産の価格−譲渡負債の価格±α」です。これに営業権や、将来の収入をもとにした評価額を上乗せする場合が多いとしています。

社会福祉法人の譲渡は、無償や低額が多い

社会福祉法人やNPOの事業譲渡は、経営権の売却より承継が主な目的になることが多いとされます。そのため「無償譲渡」「数十万から数百万円」「建物・設備の残存価値相当」での価格設定が実情だとしています。

厚生労働省の調査研究では、ヒアリングした16法人のうち8法人が土地・建物を無償で譲渡していました。8法人のうち4法人が保育所です。有償で譲渡した6法人に、保育所は含まれていません(厚生労働省 推進事業報告書)。

注意

厚生労働省のマニュアルは、譲る側の受取対価が事業の価値を下回ると、法人外への資金流出に当たりうるとしています。補助金の返還を避けるためだけの無償譲渡も、流出の可能性があるとしています(厚生労働省 マニュアル)。

補助金で整備した園舎は、返還が必要なことがある

施設整備費の補助金で整備した保育所を有償で譲渡すると、残りの期間に応じて補助金の返還が必要になることがあります。条件は補助金の種類で違うので、所管の自治体に確かめてください。幼保連携型認定こども園では、こども家庭庁と文部科学省の両方の承認が必要な場合があります。

株式譲渡の倍率

中小企業庁の集計では、社会保険・社会福祉・介護事業の株式譲渡99件で、EBITDAの9.0倍が中央値でした。全業種の中央値は7.3倍です(中小企業庁)。

区分件数下から25%の位置中央値上から25%の位置
医療、福祉150件3.5倍8.5倍19.0倍
社会保険・社会福祉・介護事業99件3.7倍9.0倍19.2倍
全業種1,987件3.6倍7.3倍15.5倍

左右の数字は最低値・最高値ではなく、件数の中央50%が入る範囲です。これより低い案件も高い案件もあります。

注意

この数字は介護などを含み、保育だけの値は公表されていません。株式譲渡の値なので、社会福祉法人の事業譲渡には当てはまりません。自分の園の倍率は、この表だけでは決められません。

仲介会社の使われ方と手数料

事業譲渡等157件のうち、仲介業者を使ったのは43件(27.4%)でした。合併では113件のうち38件(33.6%)です。

43件の手数料は次のとおりです。譲る側に限ると、500万〜1,000万円が最も多い回答(5件)でした。

手数料件数(事業譲渡等・43件)
1,000万円以上8件
500万〜1,000万円7件
200万〜500万円8件
100万〜200万円4件
把握していない12件

仲介業者に「メリットを感じた」のは、事業譲渡等で30.2%(13件)、合併で36.8%(14件)でした。大手仲介の最低報酬は2,000万〜2,500万円で、規模の小さい園ほど負担の割合が大きくなります。相談先ごとの手数料は保育園の相談先の比較で計算しています。

譲渡がうまくいかなかった例

ガイドラインは、譲渡で問題になった事例を挙げています。職員、補助金、譲渡後の運営に関わる事例です。

ポイント

これらの事例では、職員への説明と補助金の手続きが問題の中心でした。引き受ける相手の運営方針も、譲る前に確かめておく点です。

売る前にやること

売ると決めていなくても、次の点は今から整えられます。どれも合併・譲渡の手続きで確かめられる内容です。

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