調剤薬局のM&A
調剤薬局のM&A市場と、売れる薬局の条件
薬局の数、オーナー薬剤師の年齢、規模と収益、2026年度の報酬改定、事業譲渡の手続きを公的資料で整理しました。
確認 2026-10-04
3分でわかる要点
| 知りたいこと | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 薬局の数 | 63,203施設(2024年度末)。前年度より375施設増えた | 厚生労働省 |
| 薬局で働く薬剤師 | 197,437人(2024年末)。薬剤師全体の60.0% | 厚生労働省 |
| オーナー薬剤師の年齢 | 管理薬剤師を兼ねる開設者は12,591人。平均59.6歳で、60歳以上が50.6% | 厚生労働省から当サイトが計算 |
| 規模と収益 | 損益差額率は1店舗の法人で5.3%、6〜19店舗で7.6%、20〜49店舗で10.2% | 中央社会保険医療協議会 |
| 2026年度の報酬改定 | 調剤の改定率は+0.08%。新規開設の門前薬局などに15点の減算を新設 | 厚生労働省 |
| 中小M&Aの値段 | 調剤薬局を含む「その他の小売業」はEBITDAの8.1倍(中央値、75件) | 中小企業庁 |
| 事業譲渡の手続き | 2026年9月から保険薬局の遡及指定に新ルール。薬剤師の概ね8割以上の継続雇用などが要件 | 厚生労働省 |
薬局を売るときは、値段だけでなく「薬剤師が残るか」が手続きに関わります。事業譲渡で開設者が変わる場合、遡及指定を基本的に認める要件に、薬剤師の継続雇用が入っています。
業界の今
薬局の数は前年度より少し増えた
2024年度末の薬局数は63,203施設です。前年度より375施設(0.6%)増えました(厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」)。
人口10万人あたりでは51.1施設です。都道府県別では、佐賀県が65.1施設で最も多くなっています。
薬剤師の6割が薬局で働く
2024年末に届け出た薬剤師は329,045人です。うち薬局で働く人は197,437人で、全体の60.0%でした(厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」)。
前回の調査より6,702人(3.5%)増えています。
オーナー薬剤師の年齢
管理薬剤師を兼ねる開設者は、半分が60歳以上
薬局の開設者や法人の代表者で、管理薬剤師を兼ねる人は12,591人です。平均年齢は59.6歳でした。薬局で働く人全体の平均は46.8歳です。
| 年齢 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 49歳以下 | 3,045人 | 24.2% |
| 50〜59歳 | 3,171人 | 25.2% |
| 60〜69歳 | 3,551人 | 28.2% |
| 70歳以上 | 2,824人 | 22.4% |
60歳以上は6,375人で、50.6%を占めます【試算:3,551+2,824】。49歳以下の行は、29歳以下・30代・40代の合計です【試算:45+846+2,154】。
2年で7.3%減った
管理薬剤師を兼ねる開設者は、2022年の13,587人から996人(7.3%)減りました。管理薬剤師を兼ねない開設者は、同じ期間に88人増えています。
- 減った理由(閉局・譲渡・法人化・引退など)は、この統計からは分からない
- 調剤薬局だけの後継者不在率は、公的な一次情報では見つからなかった
規模によって収益が違う
1店舗・2〜5店舗の法人は利益率が低め
中央社会保険医療協議会の医療経済実態調査は、同じグループの店舗数ごとに損益を集計しています(第25回医療経済実態調査)。
| 同じグループの店舗数 | 損益差額率(前年度) | 1施設の収益(前年度) |
|---|---|---|
| 1店舗 | 5.3% | 約1億737万円 |
| 2〜5店舗 | 3.2% | 約1億4,622万円 |
| 6〜19店舗 | 7.6% | 約1億4,158万円 |
| 20〜49店舗 | 10.2% | 約1億9,333万円 |
| 50〜99店舗 | 5.1% | 約1億8,186万円 |
| 300店舗以上 | 4.1% | 約2億4,078万円 |
| 法人全体 | 4.9% | 約1億7,973万円 |
1店舗・2〜5店舗の法人は、6〜49店舗の法人より損益差額率が低くなっています。ただし、大きいほど高いという単純な関係ではありません。200〜299店舗は-1.2%でした。
- 調査の対象は、1か月の処方箋の取扱いが300件以上の保険薬局
- 同一敷地内の薬局は含まない
2026年度の調剤報酬改定
改定率は+0.08%
2026年度の診療報酬改定で、調剤の改定率は+0.08%でした(2年度平均の「その他」分)。医科は+0.28%、歯科は+0.31%です(厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」)。
調剤基本料1は45点から47点に上がりました。後発医薬品調剤体制加算は撤廃されています。
- 地域支援体制加算は「地域支援・医薬品供給対応体制加算」に改称。加算2は32点から59点、加算3は40点から67点
- 在宅薬学総合体制加算1は15点から30点
門前薬局への見方が厳しくなった
厚生労働省は改定の背景に、門前薬局の割合がむしろ増えたことを挙げています。処方箋の85%以上を特定の医療機関から受ける薬局は、2015年の32.5%から2024年の39.3%に増えました。
そのうえで「門前薬局等立地依存減算」(15点)が新設されました。対象は2026年6月1日以降に新規開設する薬局です。
- 都市部で近くに他の薬局があり、特定の医療機関の処方箋が85%を超える場合などが対象
- 医療機関と同じ敷地・建物内(医療モール)で85%を超える場合も対象
- 医療モールの複数の医療機関は、1つの医療機関とみなして計算する
既存の門前薬局を事業譲渡で承継した場合に、「新規開設」に当たるかは分かっていません。この点を明記した公的資料は見つかりませんでした。売る前に、相談先と管轄の厚生局に確かめてください。
薬局ならではの手続き
事業譲渡では、保険薬局の指定を取り直す
開設者が変わると、新しい薬局として保険薬局の指定を受けます。通常、指定日は申請の翌月1日です(関東信越厚生局)。
旧薬局の廃止日の当日か翌日にさかのぼる指定を「遡及指定」といいます。地方社会保険医療協議会で認められれば、例外として受けられます。2026年9月1日以降は、新しい通知に沿って処理されています。
遡及指定が基本的に認められる要件(抜粋)
同じ都道府県内で2km以内の移転や、所在地を変えない開設者だけの変更では、次のような要件があります。
- 1つの薬局を廃止し、1つの薬局を開設すること
- 調剤録などを引き継ぎ、旧薬局の患者への調剤を続けること
- 新しい薬局の管理薬剤師が、旧薬局と同じ人であること
- 旧薬局の薬剤師(常勤・非常勤)の概ね8割以上を、引き続き雇うこと
- 常勤の薬剤師の概ね5割以上を、常勤のまま引き続き雇うこと
出典は厚生労働省の事務連絡(2026年6月5日)です(関係団体経由の写し)。
事業譲渡で売るなら、管理薬剤師と勤務薬剤師が残るかが、遡及指定の要件に関わります。個別の扱いは管轄の厚生局に確かめてください。株式譲渡(法人の開設者は変わらない)の扱いは、この資料には書かれていません。
売却価格の考え方
公的な評価方法
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、よく使われる方法として次の3つを挙げています(中小企業庁)。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
- 類似会社比較法(マルチプル法)
純資産に「数年分の利益」を足す方法もあります。年数は通常1〜3年で、交渉で決まることが多いとされています。
調剤薬局だけの評価方法(処方箋の枚数で値段を決めるなど)を書いた公的資料は、見つかりませんでした。
中小M&Aの実際の倍率
中小企業庁の集計では、2024年度の株式譲渡の倍率は次のとおりです(M&A支援機関登録制度)。
| 区分 | 件数 | EV/EBITDA(中央値) | 中央50%の範囲 |
|---|---|---|---|
| 全業種 | 1,987件 | 7.3倍 | 3.6〜15.5倍 |
| 卸売業、小売業 | 336件 | 7.7倍 | 3.8〜14.9倍 |
| その他の小売業 | 75件 | 8.1倍 | 4.0〜20.6倍 |
| 医療業(参考) | 51件 | 7.8倍 | 3.3〜16.4倍 |
「その他の小売業」は、調剤薬局のほかにドラッグストアや書籍・燃料の小売も含みます。調剤薬局だけの倍率は公表されていません。
「中央50%の範囲」は最低値・最高値ではありません。中央の半分だけでも4.0〜20.6倍と広く、この数字から自分の薬局の値段は決められません。報告された成約案件の集計として読んでください。
誰が買うのか
大手チェーンは買収を続けると公表
上場する薬局チェーンの決算資料には、M&Aの方針が書かれています。
- アインホールディングス:2026年4月期に、M&A20社の株式取得で458億7千万円を支出。今後も「M&Aの積極活用」で規模を拡大するとしている(決算短信)
- クオールホールディングス:「東名阪エリアをメインにM&A・新規出店による規模拡大を推進」。2026年3月期のM&Aによる出店は9店舗(決算説明会資料)
クオールの中期経営計画は、「小型M&A等で店舗数拡大(1000店舗超)」を掲げています。
自社が直接買う窓口もある
日本調剤・アイセイ薬局・総合メディカルは、自社が薬局を買う立場です。窓口の会社自身が買い手なので、ほかの買い手と比べたいときは別の相談先も必要です。各社の窓口は調剤薬局の相談先の比較に載せています。
調剤薬局のM&A件数を数えた公的な統計は、見つかりませんでした。
売れる薬局の条件
公的資料の事実から、売却の前に整理しておきたい点をまとめます。
| 確かめる点 | 理由 |
|---|---|
| 管理薬剤師・勤務薬剤師が残るか | 事業譲渡の遡及指定は、薬剤師の概ね8割以上の継続雇用などが要件 |
| 処方箋をどこから受けているか | 2026年度改定で、集中率85%超の新規開設薬局に減算が新設された |
| 新しい加算を算定できる体制か | 地域支援・医薬品供給対応体制加算や、在宅の加算の点数が上がった |
| 店舗数と利益率 | 1店舗・2〜5店舗の法人は、6〜49店舗の法人より損益差額率が低い |
| 地域と買い手の方針 | クオールは東名阪を中心に、M&Aでの規模拡大を掲げている |
これらは値段を保証する条件ではありません。買い手が確かめる点を先に整理しておくと、相談先との話を進めやすくなります。
見つからなかったもの
- 調剤薬局だけの後継者不在率
- 調剤薬局M&Aの件数・平均譲渡価格の公的統計
- 処方箋の枚数や技術料を基準にした価格算定の公的資料
- 既存薬局の承継が「新規開設」の減算に当たるかの公式な解釈
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