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M&Aの契約書で売り手が確かめること(秘密保持・基本合意・最終契約)
秘密保持契約、基本合意書(LOI)、株式譲渡契約書などの最終契約で、売り手が条項ごとに確かめる点を、中小M&Aガイドラインをもとに整理。
確認 2026-10-04
目次(10項目)
はじめに:契約は3回結ぶ
会社を売るとき、買い手とは大きく3つの契約を結びます。秘密保持契約、基本合意書、最終契約です。
この記事は、契約ごとに売り手が確かめる点をまとめたものです。もとにしたのは、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」です(ガイドライン)。契約書のひな形は、ガイドラインの参考資料に載っています。当サイトでは配布していません。
最終契約は、調印の前に弁護士に見てもらってください。ガイドラインも、調印前のセカンド・オピニオンを有効としています。
3つの契約と、売る流れの中の位置
| 契約 | 結ぶ時期 | 法的な拘束力 |
|---|---|---|
| 秘密保持契約(NDA) | 買い手候補が、社名入りの詳しい資料を見る前 | ある |
| 基本合意書(LOI・MOU) | 買い手を1社に絞り、調査(DD)に進む前 | 原則ない。独占交渉と秘密保持はある |
| 最終契約(株式譲渡契約書など) | 調査(DD)の後、条件が固まったとき | ある |
このほか、仲介会社やFAとの契約も先に結びます。その契約の注意点は仲介会社・FAの選び方にまとめています。流れ全体は会社を売るときの流れと期間にあります。
秘密保持契約(NDA)
どんな契約か
秘密保持契約は、相手が会社の情報を外に漏らさないと約束する契約です。買い手候補が、匿名の概要を見て関心を持った後に結びます。
この契約の後に、社名や財務の情報が入った企業概要書(IM)が渡されます。つまり、社名を明かす前の最後の関門です。
確かめる点
- 情報を使ってよい目的が、M&Aの検討に限られているか
- 情報を見てよい人の範囲(役員・社員・専門家)
- 交渉が終わったときに、資料を返すか捨てるか
- 社員や取引先に、直接連絡しない約束があるか
ガイドラインは、秘密保持契約の前に詳しい情報が外に流れないよう、仲介会社やFAに注意を求めています。社名が出る前に、契約が結ばれたかを確かめてください。
基本合意書(LOI)
どんな契約か
基本合意書は、買い手を1社に絞ったときに、その時点の合意を確かめる書面です。ガイドラインでは、主に次のことを書くとしています。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 売り方 | 株式譲渡か、事業譲渡か |
| 譲渡額の予定 | 調査(DD)の前の時点の金額 |
| 社長・役員・社員の扱い | 引継ぎの期間、雇用 |
| 日程 | 最終契約までの予定と、双方がやること |
基本合意書は、原則として法的な拘束力を持ちません。ただし、買い手の独占交渉権と秘密保持は、拘束力を認めるのが普通です。
確かめる点
- 独占交渉の期間が長すぎないか。その間、ほかの買い手とは話せない
- 譲渡額の予定と、調査の後に下がる場合の決め方
- 拘束力がある条項と、ない条項の区別
意向表明書は、買い手が希望の条件を示す書面で、基本合意書とは別物です。こちらも、基本的に拘束力はありません。
最終契約(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書)
必ず書く主な中身
ガイドラインは、最終契約で決める主な中身を挙げています。株式譲渡でも事業譲渡でも共通です。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 譲渡の対象 | 何を渡すか(株式か、事業のどの部分か) |
| 時期 | いつ渡すか |
| 譲渡額 | 代金はいくらか |
| 支払い | いつ、どう払うか |
| 社長・役員・社員の扱い | 引継ぎの期間、雇用を続ける努力 |
| 経営者保証の扱い | 買い手が保証を外すか引き継ぐ義務、外れないときの解除や補償 |
| 表明保証 | 何を「事実だ」と約束するか |
| 補償 | 約束と違ったとき、いつまで、どこまで補償するか |
| 引き渡しの前提条件 | 引き渡しまでに何を済ませるか |
| 競業避止義務 | 売った後に、同じ事業をどこまでしてはいけないか |
| 解除 | どんな場合に契約を解除できるか |
株式譲渡は手続きが比較的シンプルです。一方で、帳簿に載らない債務を買い手が心配しやすく、調査が細かくなる傾向があります。税金の違いは会社を売ったら税金はいくらかかる?にあります。
表明保証と補償の上限
表明保証は、決算書や契約、法令の守り方などが「書いたとおりだ」と約束する条項です。違っていれば、補償を求められます。
ガイドラインは、期間や上限のない表明保証は慎重に検討すべきとしています。適用の場面があいまいな条項も、争いのもとになります。
- 補償を求められる期間(いつまでか)
- 補償の上限額(譲渡額のどこまでか)
- 何が違反になるかが、はっきり書かれているか
- 買い手が、調査で何を問題と見て、その保証を求めているか
最後の点は、ガイドラインが売り手に確かめるよう勧めている点です。表明保証保険を使う方法もあり、保険料は補助金の対象になる場合があります。
競業避止義務の期間
競業避止義務は、売った後に同じ事業を始めないという約束です。期間と地域と事業の範囲が、主な論点です。
事業譲渡で契約に何も書かない場合、会社法の決まりが当てはまります。同じ市町村と隣の市町村で、20年間は同じ事業ができません(会社法第21条)。
| 場合 | 期間 |
|---|---|
| 事業譲渡で、契約に何も書かない | 20年(同じ市町村と隣の市町村) |
| 事業譲渡で、特約を結ぶ | 30年まで有効 |
| 株式譲渡 | 法律の決まりはなく、契約で決める |
売った後に別の事業を始める予定があれば、範囲を具体的に書いてもらってください。
価格調整条項とアーンアウト
最終契約の後に、譲渡額を変える条項もあります。ガイドラインは、どれも解釈の違いで争いになりやすいとしています。
| 条項 | 中身 | ガイドラインの注意 |
|---|---|---|
| 価格調整条項(株価調整条項) | 最終契約から引き渡しまでの価値の変化で、代金を調整する | 中小M&Aは期間が短いことが多く、設けるか慎重に |
| アーンアウト | 引き渡し後の業績しだいで、代金を追加で払う | 目標があいまいだと争いに。払われないおそれも |
| 支払金の返還 | 後から損失が見つかったとき、代金を返す | 返す場面があいまいだと争いに |
アーンアウトの期間は、3年以内が多いとガイドラインは書いています。売り手と買い手の値段の差を埋めるためだけに使うのは、慎重にすべきとしています。
支払いが引き渡しの後になる条項
| 条項 | 起きうること |
|---|---|
| 代金の分割払い | 買い手の状況しだいで、払われないおそれ。期間が長いほど危ない |
| 役員退職金の後払い | 業績しだいで、払われないおそれ |
| 株式の段階的な買い取り | 途中で双方の意向が変わるおそれ |
代金は、引き渡しの時に一括で受け取るのが基本です。分割にするなら、遅れたときの決まりを書いておきます。悪質な買い手の手口はM&A詐欺・悪質な買い手の手口と見分け方にまとめています。
引き渡しまでの期間
最終契約から引き渡しまでの期間が長いと、業績が変わって契約の修正が要るおそれがあります。ガイドラインは、特別な事情なく2か月以上空ける場合などに注意を促しています。
社長個人の名義の土地や、会社名義の自家用車などは、できるだけ最終契約の前に整理します。後に回すと、合意した中身が変わって争いになりやすいためです。
経営者保証の書き方
会社の借入を社長が保証している場合、最終契約での書き方が大切です。ガイドラインは、次の書き方を示しています。
- 保証を外す、または移すことを、買い手の義務として書く
- 外す手続きが進むことを、引き渡しの条件にする
- 引き渡しの日に、代表者の変更登記と保証の手続きを同時に行う
- 外れなかったときの解除や補償を書く
引き渡しの時に、買い手の資金で借入を返してもらう方法もあります。赤字の会社の場合は赤字・債務超過でも会社は売れるかも参考にしてください。
調印の前のチェックリスト
- 3つの契約のうち、どれに拘束力があるかを分かっている
- 表明保証に、期間と上限がある
- 競業避止の期間・地域・範囲が、自分の予定と合っている
- 代金を受け取る日と方法が、はっきりしている
- 経営者保証を外す手順と、外れないときの決まりがある
- 弁護士に、調印の前に見てもらった
言葉の意味はM&A用語集にまとめています。
次に読む
- 悪質な買い手:M&A詐欺・悪質な買い手の手口と見分け方
- トラブルと窓口:M&Aのトラブルと悪質な買い手・業者を避けるには
- 売る流れ:会社を売るときの流れと期間
- 手数料:手数料の計算
出典
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)
- 会社法 第21条(e-Gov法令検索)
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